脳内セロトニンの研究

 現在、都道府県が作成する地域保健医療計画では、これまで言われていた「4大疾病」(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)に、うつ病などの“精神疾患”を追加して「5大疾病」とする方針が示されています。しかし、5大疾患に限らず、あらゆる傷病後において、最初に取り組むべき課題は“ストレス対応”です。そして私たちは、生薬を用いてストレスに対応する研究とテラフォトン療法を組合わせストレスとうつに対応する研究を続けています。

■ セロトニン (serotonin, 5-hydroxytryptamine, 5-HT)
 セロトニン (serotonin, 5-HT) は、モノアミン神経伝達物質で視床下部や大脳基底核、延髄の縫線核などに高濃度に分布しているトリプタミン誘導体の一種である。メラトニンはセロトニンから合成される。

1.トリプタミン
 トリプタミンは、有機化合物である。神経伝達物質であるセロトニン、睡眠を制御するホルモンであるメラトニンなどが、トリプタミン類としてよく知られている。
 また細菌、植物、動物に分布しているトリプタミンアルカロイドは、精神作用効果があることで知られている。化学合成法も多数知られており、偏頭痛の薬であるスマトリプタン及びその誘導体などが合成されている。

2.人体におけるセロトニン作用
 セロトニンはヒトを含む動植物に一般的に含まれる化学物質で、トリプトファンから生合成される。人体中には約10ミリグラムのセロトニンが存在しており、そのうちの90%は小腸の粘膜にあるクロム親和細胞(EC細胞とも呼ばれる)内にある。クロム親和細胞はセロトニンを合成する能力を持っており、ここで合成されたセロトニンは腸などの筋肉に作用し、消化管の運動に大きく関係している。ここで合成されたセロトニンの一部(総量の約8%)は血小板に取り込まれ、血中で必要に応じて用いられる。

■ うつ病とセロトニン
 抗うつ薬には、三環系抗うつ薬・四環系抗うつ薬・SSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)・SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込阻害薬)・MAO阻害薬などの種類がある。憂鬱感や気分の落ち込み、不安感を改善する抗うつ薬の作用機序は、脳内のセロトニン・レベルやノルアドレナリン・レベルによって精神状態や気分の高低が決定されるという脳内モノアミン仮説を前提としている。つまり、脳内の神経細胞(ニューロン)終末と他の神経細胞終末との間にあるシナプス間隙において、セロトニン5-HT)やノルアドレナリン、ドーパミンといった神経伝達物質(情報伝達物質)の分泌・受容が行われるというのがモノアミン仮説である。

図1 脳内の情報伝達物質の交換によって精神活動が営まれるというモノアミン仮説(セロトニン仮説)を前提とすると、不快で苦痛な精神症状(抑うつ感・不安感・パニック・強迫観念)を治療或は予防する為には、脳内の情報伝達物質の分泌量をコントロールすれば良いという考えに行き着いた。モノアミンの一種であるセロトニン(5-HT)は、主に人間の脳幹に近い縫線核の細胞内で産生されて、ニューロンの末端まで運搬されシナプス小胞に貯蔵される。

図2 シナプス小胞に貯蔵されたセロトニンは、脳内の情報交換を行う時に微弱電流の刺激によって、シナプス間隙に放出さる。シナプス間隙に放出されたセロトニンの一部は、セロトニントランスポーターという部位に再び吸収されるのを「再取込」という。(左上図)
 パキシルなどSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:選択的セロトニン再取込阻害薬)に分類される薬剤は、このセロトニントランスポーターに特異的(選択的)に結合して再取込を阻害することで、うつ病の気分や感情の障害を改善するとされている。(左中図)

図3 脳内の化学的な情報伝達の結果、シナプス間隙に存在するセロトニンの分量が過少になると精神運動制止(精神運動抑制)が起き、抑うつ感や億劫感、焦燥感、不安感といったうつ病の症状が発症してくると考えられている。(左下図)